「つまらん!」
「・・俺はつまってるからいいです・・」
賢者の石
毎度、面倒だと言いながらも嫌々している報告書の提出。
報告書を書くのは別に苦じゃない。むしろ好きの部類に入る。
だが如何せん、このいけ好かない上司が問題なのだ。
「鋼の、暇だ。踊れ」
この無能いい加減にしやがれボケ大佐と喉まで出かかったが
相手が一応上司なので耐えた。
ロイ・マスタング。
地位は大佐。そして無類の女好きとして知られているが詳細は
知らない。一部ではこの地位は体で買ったと、まことしやかに噂
されているがそれはないだろう。
この男は有能な部下が消えると無能に成り下がる。
「こんなことなら中尉と一緒に行けばよかった」
盛大に溜め息をつきながら言うが後の祭。
追加の分の書類を取ってくると言い出て行ったホークアイ中尉は
この男、ロイ・マスタングの有能な部下である。この人なしで
今の地位は得られなかっただろう。いや、本気で。
「鋼の」
先程のふざけた態度はどこへやら、真顔になったロイに
エドは俯いていた顔を上げた。
「・・賢者の石は・・見つかると思うかね?」
「・・・ある、と・・信じてる」
握り拳を作り、唇をかみ締める。
見つかると思うじゃない。
見つけるのだ。弟の為に、幸せを取り戻すために。
「・・そうかね」
ふと頭上に影が出来て、エドはもう一度顔を上げた。
ちゅっ
何をされたか理解する間もなく抱きしめられる。
顔を、広い胸板へ押し付けられ、軽い混乱をきたした。
「た、たたた大佐!?」
「・・あまり、無理をするな・・」
「大、佐・・?」
呆然としているエドの耳に鼓動の音がやけに早く聞こえ、
柄にもなく緊張している大佐に笑ってしまった。
「ん・・とりあえず、気をつけるよ」
意外な一面を目撃し、ニマニマ笑ってるエドの頭を
軽く小突いてロイは言った。
「つまらん、鋼の。回れ」
大佐は大人で子供。
俺の太陽。