青は蓮華さん。
緑はHIKARI。
夏休み
「ねぇ、海行こうよ」
全ての事の始まりはキラの一言だった。
現在の気温は32℃。
外は蝉の鳴き声が響き渡っている。
キラは久しぶりにアスランの家に来ており、ベットの上で寝転がっていた。
「海?突然どうしたの?」
アスランは一通りの仕事を終え、キラのいるベットの端に座った。
部屋は暑いのが苦手なキラの為に冷房を強にしてある。
「う〜ん。何となく行きたくなって。だって去年行けなかったでしょ?」
「キラは熱を出して倒れちゃったし、両親が忙しかったからね」
「だから、一緒に行かない?ダメ?」
キラが首を傾げて、今にも泣きだしそうな目でアスランに問う。
アスランの胸の鼓動がどんどん早くなっいくのが分かる。
思わずアスランの口からため息が出た。
どうしてこんなにもキラに甘いのだろう、と思いながら。
「分かった。その代わり条件がある」
「条件?」
「うん。絶対に2人っきりで行くこと。いい?」
笑顔で言うアスランだが、口調は笑っているようには聞こえない。
実はキラはニコルやイザークも誘おうとしていたが、そのことは胸に閉まっておこうと決意した。
「・・・分かった・・・。」
「あれ?キラ、どこに行くの?」
久しぶりに家にいて洗濯をしているキラの母が尋ねた。
「アスランと2人で海に行くの。近くにアスランの別荘があるらしいから。」
「そう・・・。久しぶりにキラとお出かけしようと思ってたけど・・・しょうがないわね。いってらっしゃい。」
「行ってきま〜す!」
キラは大きな荷物を持ちながら元気に手を振りながら言った。
ここ最近ずっと親が家にいなかったので、キラは上機嫌だった。
急いで行く準備をしているアスランの元へ行き、アスランに挨拶をする。
「アスランっ!お早う!!」
「あっキラ!お早う。もうちょっと待っててね。」
「うんっ。」
それから5分後、2人は仕事に出かける途中のアスランの父の車に乗った。
その日は見事に晴天で雲一つなかった。
アスランとキラは車の中でトランプや会話をしながら楽しく過ごしていた。
トランプにも飽きて来た頃、ようやく車は私道に入った。
満遍なく引かれた砂利にかすかに揺れながら走るアスランの
高級車の窓を開け、キラは顔を覗かせる。
潮の匂いと山の緑が妙にマッチングし、
それがとても綺麗で、キラは満足そうに微笑み、アスランもそれを見て幸せそうに笑った。
別荘が建っている山もプライベートビーチもザラ家の所有地だ。
アスランの別荘は、
夏だけ使用するには勿体ないくらい豪勢で居心地がいい。
ガラス張りの設計になっていて、昼は心地の良い日差しが入る。
夜は星空が目の前いっぱいに広がり、雨の日でさえも美しい。
周りに民家もないので、人の目が気になるということはなかった。
さらに冷暖房完備なので、不快感はまったくないときている。
そのリビングに、持ってきた荷物をひとまず集めてキラは言った。
「アスラン、海行こう!海!」
早くも服を脱ぎだしているキラにアスランは
苦笑いしながら言う。
「キーラ、もう夕方だよ?海は明日行こうよ、ね?
さ、夕食作ろっか。」
「えー、そっかぁ・・ちぇー」
がっくりと肩を落とし、窓から海を眺め、明日への期待が膨らんだのか、
キラはすぐさま機嫌をなおし、アスランの後からキッチンに向かった。
キッチンへ向かい、アスランとキラは冷蔵庫の中を開けた。
すると綺麗に整頓されてあり、キラが見たこともない高級食材が沢山並べられてあった。
「キラ、食べたいものある?」
「ごめん・・・知らない食材が多すぎて・・・。」
「じゃあ何か新しく買ってこさせようか?」
するとアスランはズボンのポケットから最新型の携帯を取りだし、
お手伝いさんを呼ぼうとしていることにキラは気付いた。
「ちょっアスラン!そんなのお手伝いさんに申し訳ないよ!」
「でもキラは食べたくないんだろ?」
「そりゃ・・・そうだけど・・・」
「だったら仕方ないよ。キラが食べたくないものだったらあっても仕方ないし」
キラを優先してくれるアスランの気持ちは有り難いが、せっかくの食べ物を無駄にすることはキラには出来ない。
こうなったアスランを止めることは至難の業だった。
それならっ!っとキラは一か八かの賭けに出た。
「だったら・・・僕が料理を作るっ!!」
「えっキラが?!そんなキラに危ない目にさせる気は・・・」
「僕だって料理は作れるし、いつまでもアスランに世話になってたら駄目だもん!」
今まで一緒にいたが、アスランはキラの料理を食べたことがない。
っと言うより作っている所を見たことがない。
いつもアスランのお手伝いさんがしてくれるか、アスランが大抵作る。
キラの頼みを断ることも出来ず、アスランは仕方なく承諾した。
「分かった。ただし、少しでもキラが怪我したら俺がする」
「うんv」
「じゃあちょっと待ってて」
アスランは別の部屋に入り、数分後"あるもの"を持って出てきた。
「はい、このエプロンをつけて・・・」
「何?!このエプロン!物凄くレースとか入っているじゃない?!」
「だってエプロンこれしかないし。それとも料理作るのやめる?」
確かにこのエプロンをして料理をするのも嫌だが、いつまでもアスランにお世話になる訳にはいけない。
キラは大きくため息をつき、エプロンをつけた。
最初は気が向かなかったが、こうしてみると、まるで新婚のようだ。
(・・裸エプロンだったら、もっと嬉しいんだけどね・・)
鼻歌まじりに野菜を刻むキラ。
トントンという規則正しい音に耳を傾けながら、アスランは嬉しそうに微笑んだが、次の瞬間固まった。
「ちょ、待っ・・キラ!?何入れてるのっ!?」
「?何って・・ヨーグルトだけど?」
キラの手元の材料から推測するに、オムライスのようだ。
オムライスにヨーグルトを混ぜる工程などあっただろうか?
否、ないはず。
「キラ・・もうご飯が凄いことになってるよ・・」
ヨーグルトが温かいご飯にまじり、何か酸っぱいような変なにおいをかもしだしている。
思わず、嘔吐感がこみ上げたが、キラの楽しそうな顔を見ると、何も言えなくなった。
「仕上げにっチョコをちょこっと入れまして〜♪」
「なっ・・キラッ!そんなの入れたら・・!」
「もいっちょ、隠し味にゼリーもいれて〜っ♪」
「きらぁ・・」
そうして、出来上がったのは到底『オムライス』とは言えない代物だった。
「はい!アスラン出来たよv」
「っうー・・ん」
それでも根性でそれを食べたあたり、アスランの愛の深さえを伺える。
果たして、アスランは無事にこのバカンスを過ごすことが出来るのであろうか・・。
痛む腹をかかえて、アスランは静かにため息をついた。