+silent game+ 2
外に出るとそこは廃置だった。
壊されたビル、所々に置いてある拳銃。
多分、ここの街も戦争をしてしまったんだろう。
人間の死体がゴミとなって横たわっている。
アルはしばらくこの風景を見ていると、幼い少女が可愛い足取りやって来た。「どうかしたの?」
幼い少女は首を傾げながらアルに尋ねた。
「ううん。何でもないよ。君は何故ここにいるの?」
「お母さんがね、ここにいるの。」
意外な幼い少女の言葉にアルは驚いた。
この街には人間がいる気配が全くなかったからだ。
だけど笑顔で答える少女にこれ以上アルには尋ねることが出来なかった。「来て!特別にお母さんに会わせてあげる!」
無邪気に少女はアルの腕を掴んで、少女のお母さんの元へと引っ張って行った。
着いた場所は、マンションだと思われる建物だった。
「ここに・・・お母さんがいるの?」
「うん!初めてのお客さんだから、きっとお母さんも喜んでくれると思う!」
アルは少女に連れられるまま、アパートの中へと入って行った。
廊下と言ってもアパートは崩れていて、原形もほとんどない。
少女の足は目の前のドアでピタリと止まった。
ゆっくりと部屋のドアが開けられる。「入って。」
その時の少女の顔には今までの無邪気さはなかった。
そこにはどこか大人びた、違う少女がいた。
アルは部屋の中に入り、その後に少女も入り、ドアの鍵を閉めた。
部屋の中は質素な感じで、冷蔵庫とタンスぐらいしかない狭い部屋だった。「お母さん。お友達を連れてきたよ。」
少女はゆっくりお母さんの元へ笑顔で歩いた。
そのお母さんの姿を見て、アルは絶句した。
頭を撃たれていて、お母さんの周りには血でいっぱいだった。
そんなお母さんに少女はずっと笑顔で話しかけている。「そう言えば、お友達を連れてきたことなかったよね!喜んでくれて嬉しいな。」
その無邪気に話す幼い少女にアルは恐怖を感じた。
「目を覚まして!君のお母さんはもう死んでいるんだよ!」
アルは少女と向かい合うような形で少女の肩を揺らした。
「お母さんが死んでいる?・・・何を言ってるの?」
「現実から逃げちゃ駄目だ!君のお母さんはもう・・・!!」
「ううん。お母さんは生きてるよ。ほら・・・。」
少女はアルから離れ、お母さんの顔にそっと手を差し伸べる。
「お母さんはいつも私に笑いかけてくれる・・・。」
その時の少女の目は死んでいた。まるで何かに取り付かれたような。
少女の瞳から一筋の涙が頬を通り、流れた。
アルには一瞬目の前の少女が昔の自分と重なって見えた。
あの頃の幸せが止まってしまった瞬間を・・・。
アルは静かに部屋を出た。
再び街に足を踏み入れると、外は真っ暗になっていた。
それでもアルは歩き出した。時間が迫っている・・・。
アルは現在、隣町の何もない田舎にいた。
まるでさっきまでいた廃地が嘘みたいに平和だった。
そこで公衆電話を見つけ、セントラルの電話番号を押した。「はい。セントラルですが。」
「ホークアイ中尉ですか?エドワード・エルリックの弟です。」
「ああ。アル君ね?貴方のお兄さんから聞いてるわ。ちょっと待ってね。」
そう言ってホークアイ中尉は電話から離れた。
電話の向こうから騒がしい声が聞こえる。
もちろん楽しそうな声を出している兄さんも。
それから3分後、やっとエドに受話器が渡された。「アル!久しぶり!どうしたんだ?」
「うん。ちょっと明日こっちに来てくれるかな?話したいことがあるんだ。」
「今話せないことなのか?・・・分かった。じゃあ明日の午後8時くらいに着くと思うか
ら。じゃあな!」エドは慌ただしく電話を切った。
受話器からツーツーと音が鳴っている。
アルは静かに受話器を置き、その場から離れた。
見上げると、昔のままの果てしなく広がっている空があった。
アルの頭の中に女性の声が響く。『もしかしたらお母さんも蘇らせるかもね。』
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