いつもと変わらない穏やかな毎日。

隣にはいつも兄さんがいてくれて、目の前には優しいお母さんがいる。

そんな日々がいつまでも続くと思っていた。

だけどこんな願いは簡単に崩れ落ちてしまった。


+silent game+


目を開けると見知らぬ部屋にいた。

どうしてここにいるのか分からない。

ただ、分かるのは酷く体がいたくて動けないことぐらいだ。

座ったままの体勢で体中鎖を巻き付けられていている。

「お目覚めかしら?」

見知らぬ女の人がゆっくりとアルに近づきながら言った。

恐ろしく綺麗な人。

「ここがどこだか分かる?」

アルは辺りを見渡した。

広くて薄暗く、あちこちにドラム缶が置いてある。

再びその女性に目を向けると、彼女は優しく微笑んでいた。

「貴方は誰?」

アルはおそるおそる聞いた。

何故だか初めて会った気がしない。

「さあ?そうね・・・。でも一つだけはっきりしていることは、貴方の味方って
ことね。」

「僕の味方?」

「そうよ。・・・どちらを選ぶかは貴方次第だけどね。」

漆黒の瞳がアルを映し出す。

優しく微笑んでいるのに悪魔の囁きに聞こえてしまう。

こうしている間、アルの体は次々と悲鳴をあげている。

鋼の体のはずなのに、痛みは治まることを知らない。

その様子に気付いたのか、その女性はクスリと笑った。

「痛いでしょう?そうよね。今まで生きていられたことも奇跡なんだから。」

「どういうこと?」

突然の彼女の発言に思わずアルは聞き返してしまう。

こんな状態なのに彼女はずっと微笑んでいる。

するとその女性の口から最も恐れていた言葉が出た。

「貴方はもうすぐ死ぬわ。魂だけがその鋼の体の中から出ていってね。」

そう言うと同時に彼女は何かをアルに投げた。

それはアルの目の前に落ち、コロコロと転がっている。

綺麗な砂が入った砂時計だった。

「タイムリミットは3日後。それまでに貴方の兄を殺しなさい。」

「なっ?!どうして兄さんを?!」

「最も貴方と血が深いからよ。あの子を殺せば貴方は生きていられる。」

兄さんを・・・殺す?

アルの頭でその言葉だけがぐるぐると回っている。

たった2人の兄弟で、いつも一緒に笑っていてくれて。

だけどどちらかが死ななければならない。

「兄さんじゃないと・・・駄目なの?」

「ええ。でももし兄を殺せば貴方は元の姿に戻れるわ。・・・人間にね。」

その言葉は激しくアルの心を揺らされた。

人間に戻りたい。でも兄さんを殺すなんて僕には出来ない。

アルが悩んでいると、彼女は鎖を外してくれた。

そして彼女は砂時計を拾ってドラム缶の上に置いた。

砂時計を引っ繰り返すと砂は上から下へゆっくりと落ちていく。

「この砂時計は特殊でね。3日後になると呪いが発動する仕組みになってるの。


「呪いって?」

「それは後でのお楽しみよ。大丈夫、貴方が兄を殺せば解除されるから。」

「・・・。」

あまりに大きな出来事が多すぎてアルの頭が未だ混乱している。

もう声が出ない。言葉が出てこない。

静かになった部屋の外は鳥の泣き声がした。

改めてこれは現実なんだと実感される。

「ゲームスタート。」

残酷なゲームはその女性の一言から始まった・・・。

 

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